注文住宅で失敗したこと

30代も半ばを過ぎ、2人の子供達も小学校に上がった頃、一軒家を持つ事を考え始めました。夫婦で建て売りを何軒か見てまわりましたが、思い通りのものはありませんでした。結局、注文住宅で家を建てる事にしました。
1階をリビングやダイニングとして、2階を寝室。そして、子供部屋、そして私の書斎。私は趣味で歴史研究の真似事をしており、落ち着いて作業が出来る書斎はこだわった部分でした。

工務店の仕事は丁寧で、平面図で想像した通りの家を目の前にして、大変嬉しかったのを覚えています。ところが数年住んでいると、使うと思った書斎にいる時間がない事に気付きました。無理もない話で、仕事をしている平日は帰って寝るだけ、書斎にこもる時間なんてありません。そうするうちに、子供達も大きくなり、1人部屋を欲しがり始めました。妻のすすめもあり、書斎を上の子の部屋にしました。定年退職する頃には子供は結婚して独り立ちして空き部屋になる、そう思ったのです。

それから十数年が過ぎて、私は定年退職しました。ようやく書斎で歴史研究が出来る、と、思っていたのですが……子供達はまだ家にいました。きちんと子供達が就職出来た時点で安心していたのですが、結婚が必ずしも当たり前ではない時代になるとは、思ってもみませんでした。見込み違いにがっかりすると共に、実家暮らしで相手が出来る訳がないので、いっそ子供達を追い出すべきか、と妻に相談してみましたが、価値観の違いをたしなめられました。結局子供に何を言ったわけでもありませんが、何となく子供とぎくしゃくした空気になっていました。

それからもうしばらくした時、私が急な心臓の不調で、風呂場で動けなくなった事がありました。その時に動いてくれたのは、子供達でした。妻1人ではどうなっていたか分かりません。その後、かかりつけの医者を作り、健康にも気を付けるようになった頃合いに、子供は結婚して相次いで家を出て行きました。ようやく書斎が使える事になりましたが、部屋には子供の本や机が残ったままです。書斎で作業をしながら、たまに子供が残した本を読みふけってしまう事もあります。家を建てた時のイメージとは随分違ってしまったなぁ、と思いつつも、まんざら悪い結果でもない、と感じています。

これから家を建てる人がいたとしたら、あまり先を読んでも仕方がないので、季節一巡り、今から1年だけを想像して作れば良い、と、伝えたいです。それ以外は、多少見込み違いがあったとしても、何だかんだで良いようにまとまってくれる事もあるのです。